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東京地方裁判所 昭和57年(行ウ)140号 判決 1983年1月31日

埼玉県八潮市鶴ケ曾根一二九七番地八潮中学校内

原告

伊藤隆男

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号

被告

国税不服審判所長

林信一

右指定代理人

池田準治郎

中村正俊

山田和男

八木庸一

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告

被告が原告に対し昭和五七年五月一九日付けでした裁決を取り消す。

二  被告

主文と同旨

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、昭和五六年三月三日付けで昭和五五年分所得税について、給与所得の金額を七一万円、雑所得の金額を二七〇〇円、所得税額を四万二二〇〇円及び還付金の額に相当する税額を一六〇〇円とする旨の確定申告をし、更に同年七月三〇日付けで、原告の所得税額から二一一〇円外国税額控除をして、還付金の額に相当する税額を三七一〇円とすべき旨の更正の請求をしたところ、越谷税務署長は、同年八月一八日付けで更正をすべき理由がない旨の通知(以下「本件処分」という。)をし、原告の異議申立てに対しても、同年一一月一二日付けでこれを棄却する旨の決定をした。そこで、原告において被告に対し審査請求をしたところ、被告は、昭和五七年五月一九日付けでこれを棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

2  しかしながら、本件裁決は次のとおり違法であり取消しを免れない。

すなわち、原告の所得税四万二二〇〇円の中には、自衛隊の管理運営等の費用に当てる分が二一一〇円含まれている。しかし、自衛隊は、戦争の放棄、軍備及び交戦権を否認した憲法九条一、二項の規定に違反するから、日本国政府は、自衛隊の管理運営等の費用に当てる税金を国民に課することができない。したがって、右二一一〇円の所得税を課したのは、日本国政府以外の外国であり、右二一一〇円は、外国所得税であり、所得税法九五条の外国税額控除の対象となるから、これを原告の所得税額から控除すべきであるとする原告の更正の請求は理由があり、本件処分を正当として維持した本件裁決は違法である。

3  よって、本件裁決の取消しを求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1のうち、原告が昭和五六年七月三〇日付けで更正の請求をし、越谷税務署長が同年八月一八日付けで本件処分をしたこと、原告が異議申立てをし、同署長が同年一一月一二日付けで棄却決定をしたこと、更に原告が審査請求をし、被告が昭和五七年五月一九日付けで本件裁決をしたことは認める。

2  同2、3は争う。

理由

一  原告の本訴請求は、要するに、本件処分を正当として審査請求を棄却した本件裁決の取消しを求める、というにある。しかし、行政事件訴訟法一〇条二項は、「処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができない。」と規定しているところ、本訴請求のように処分を維持した裁決の実体的違法を理由として裁決の取消しを求めることは、同条項の「処分の違法を理由として」裁決の取消しを求めることに帰着し、同条項に違背するものといわなければならない。

二  よって、原告の本訴請求は爾余の点について判断するまでもなく理由がないことが明らかであるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 泉徳治 裁判官 大藤敏 裁判官 杉山正己)

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